魔人望蜀
～エピロ～グ～
何も書いていない。
今、帰国して日本で過ごしている。
帰国して、すぐにパソコンを開け、おれが中国に行っている間、日本でどんな重大事件が勃発していたのか、ネットをあれこれと検索してみたが、韓国のネトウヨと日本のネトウヨがひたすら互いが互いを一方的に不毛な書き込みをしあっていただけで、それ以外には、何事も起こっておらず、ネットを見れば、見るほどバカバカしい限りだった。
まったく、ネットなどバカバカしい。
しかし、それでも情報のたれ流しのなかで、おれはもうずっかり成都でのことなど忘れかけている。
そう。まるで一炊の夢であったかのように、成都でのことは忘却の彼方へと押しやられてつつある。
いや、・・・まだ忘れていない。忘れきれないこともある。
日本に帰って来たときのおれのことだが、ハワイの日本人女性とは上海まで仲良くしゃべっていた。
しかし、日本に近づくにつれ、お互い、口数も少なくなっていた。
帰国して、空港の税関を通る時、中部国際空港の警備員の態度がやたら悪かった。
日本に帰ってきた日本人に笑顔はないのか？
不愉快なやつらだ。
中国の公安や人民解放軍と何が違うというのか。
ふと周りを見回すといつの間にか女性はどこかに消えていた。
孤独を感じつつ、空港を後にした。
その後、何事もなく、家に帰り、今でも、ひきこもりの生活を続けている。仕事？中国まで自分探しの旅に出かけたが、日本に帰って来てから、そんなことはどうでもよくなってしまった。大体、仕事を探すといっても、朝、起きるのが相変わらず辛い。大体、仕事をしていないので、何も早く起きる必要もない。頭痛がよくなるまで、ゆっくり寝ていればいい。
そうだ！仕事を探すなんて、朝、起きれるようになってからだ。
昼頃に起きる。
まず、ゲームをする。帰国してから、ずっと三国志のゲームをやっている。ずっとゲームをし続けて、それに飽きると今度はネットを開いてみる。それそれ、書くネタはいくらでもごろごろしている。
佐野研二郎とかいうデザイナーの五輪エンブレム盗作疑惑や磯崎陽輔首相補佐官の『法的安定性は関係ない』発言や武藤貴也議員の『戦争に行きたくない若者は、利己的で自己中心的』発言・・・あれよあれという間に多くの問題が飛び出し、安倍内閣の支持率はずっと下がり続けている。
ひきこもりのおれにとっては好材料の目白押しだ。
早速、これらの問題について、書き込みを始める。
〝佐野なんとかがベルギーの劇場のエンブレムを知っていたかについては『事実無根』でしかないだろうが、小淵優子の問題が出てもさして揺るぎなかった安倍内閣も新国立競技場や安保法案でつまずき、磯崎、武藤の両氏がそれに追い打ちをかけたのは事実だ。つまり、データーから見てとれる客観的な事実は安倍内閣の支持率が上がり続けている原因は安保法案の議論が始まるとともに百田尚樹氏の『沖縄の２っつの新聞は潰さないといけない』や大西英男議員の『沖縄の新聞を懲らしめる』をかわきりに様々な失言・暴言が飛び出してからだということになる。
佐野氏の五輪エンブレムは『事実無根』でも、デザイン監修した景品用のサントリーのトートバッグは他者のパクりだったと認めており、磯崎首相補佐官の『法定性は関係ない』は完全な失言であり、武藤貴也議員のデモをする若者に対する『自己中心、極端に利己的な考え』発言は利己的という日本語の使い方が根本的に間違っている。利己的とは自分の利益のみ追求することであり、戦争に行くたくない＝自分の利益ではない。云うなら、徴兵制はないので、誤解していると云うべきだし、何かの拍子に出た失言ならまだしもツィッターに書いてしまっている自体、浅はかというものだろう。その武藤議員、株が２倍になるとかで、金を集めていたそうだが、そっちのほうが事実としてははるかに問題だ。百田氏は議員ではないが、『新聞を潰さないといけない』などおよそ言論人とは思えないし、大西議員にいたっては暴言以外の何者でもない。
こうした事実について、いくら他人があれこれと云っても何の解決にもならない。何よりも失言・暴言、パクりをした人物がその事実について、真摯に語らねば、と思う″。
どうだ。・・・なかなかの意見だろう。
おれもこうした意見をちゃんと持っているんだ。
ただのひきこもりなんじゃない。
そうだ。これまで不運が続いていただけなんだ。・・・就職難・・・仕事の適性・・・女性との出会い・・・親の病気・・・。
しかし、こうしたまっとう意見について、誰も「いいね！」を押さない。
「いいね！」を押すのは得てして、くだらない意見ばかりだ。
くだらない意見で、「いいね！」、「いいね！」と押しあって、くだらない人間同士で無意味に支え合ってるのだろうさ。
そして、そのあと、むなしく過ごしていることだろう。
日本はバカとくずとくだらないものたちの楽園だ！
おれの意見を読め！愚か者ども！
そんな国におれは帰って来た！
また帰って来てしまったんだ！
日本から逃げたくなって行き、最後は帰りたくなって帰ってきた。
おれはいらいらとして、ロットを手にする。
こんなおれに残ったものはゲームとツイッターとバス釣りだけだ。
ゲームもツイッターもバス釣りも行く前のひきこもり生活に戻っただけの話で、戻って来て何が変わったかといえば、ひきこもり生活のなかにバイクが加わったというだけのことだけだ。
今、原付バイクでひたすら、山道を走ったりしている。山道を登り、そして、山道を爽快に下る。
次は富士山まで走ってみるか！
（おれは蜀の王様だ！蜀の王様だぞ！）
心の中でそう叫ぶと下界が日の光で眩しく、眩しく輝き続けて見える。
（蜀の王様だ！あははははははははははははは！）
美しく気高い四姑娘山の姿が頭に浮かぶ。
その叫びに誰の返事もない。
おれの成都への旅は終わった。
はたして、おれは何を得て、何を失って、帰ってきたのだろう？
親睦とは？友誼とは？情愛とは？
その答えが見つからない。
見つからないのは、人間としての何かが足りないからだろう。
幸い金はまだ少し残っている。
おれは今、中国から学んだ今度の旅行の経験を元に、
（次は大連か韓国に行ってみようかな・・・）
と後悔もせずに思っている。
いや、その前にまず精神科に行くべきだろうか？
２０１５年９月２６日