大連外語（３）

　もうこの部屋ともおさらばだ。わたしは部屋の前に立ちつくす。ただ、じっとドアを見つめる。いろいろなことが思い出されて、さまざまなことが湧きあがってくる。毎夜毎夜の酒盛りとバカ騒ぎ。乱れに乱れた男女関係。みんなで旅行したこと。ひとりで砂漠を歩いたこと。大連外語の中国人たち。けっして、尽きることのない・・・どれもこれももう二度と来ないとなるといい思い出たちだ。そして、大切な大切なわたしの友人たち。

　ひとり、ひとり、思い出していこう。

　犬君。ーよくいっしょにバカなことしてたな。・・・そういえば、犬君と出っちゃんと生田さんと伊藤さんとで真冬にソ連との国境まで旅行したことがあった。そのとき、ぎゅうぎゅう詰めのバスに乗る羽目になって、しかもそんな寿司詰めのバスがノンストップで６時間も走り続けた。ようやく、休憩で止まったときはみな真っ先にトイレに駆け込んだものだ。ところが、後で話しを聞くと犬君だけは我慢しきれずにバスのなかでビニール袋に小便をして、それを窓から投げ捨てていたらしい。そのことをしゃべった後、��伊藤さん（女性）には黙っといて″と云ってたくせに、旅から帰って、宴会になった時、酒に酔っ払って、自分からバラし、��サイテー″と云われたのを心の底から喜んでいる風だった。・・・変な奴だったな。卒業して、大連を去る時に駅まで見送りに行ったら、ちょっと涙ぐんでいた。寂しがり屋な奴だった。

　カンちゃん。ーハルピンの氷祭りにいっしょに行ったときは宿が全然、見つからなくて、−２０度とか３０度の極寒の世界のなかをふたりして、さまよい歩きたな。あのときは本当に死なないように夜通し歩き続けなきゃいけないのかと思った。八甲田山ごっこして、遊んだっけ？あれも懐かしい思い出だな。さわやかな振りをしたり、さわやかでない振りをしたり、あれこれとかっこつけて見せるのが好きだったな。カンちゃんは。

　出っちゃん。ー日本に残してきた彼女のことでよく悩んでた。よく人生相談みたいなこととかしてたな。一番、話しやすい友達だった。それによくいっしょにキムチラーメン食べたな。日本のインスタントラーメンに朝鮮族の人達が作ったキムチ乗っけただけのものだけど、それが美味しかったこと、美味しかったこと。出っちゃん。また日本でキムチラーメン食べような。

　諸星さん。ー夜、遅く、トイレに行くと部屋のドアが開いて、明かりが漏れていたので、��遅くまで何やってるだろう？″とふと部屋の中を覗いてみると諸星さん、パソコンを打ちながら、げらげらと笑っている。（何を笑っているんだろう？）とこっそり入って見てみると『まん×』とか、『ちん×』とか、猥褻な言葉をパソコンに打ち込んでいる。

それで思わず、

『何をしてるんですか？』

と聞いたら、

『変換すると・・・見てみろ？』と云って、��万個″とか出てきた文字を充血した目で見つめて、本当に面白そうにげらげらと笑った。

あれは・・・本当にちょっと怖かったな。

　生田さん。ー酒ばっかり飲んでたな。いいひとだけど、悪い酒のときはな・・・。

　長谷川さん。―性格も顔も本当に可愛かったな。結局、告白もできず、友達のまま終わってしまった。まぁ、ふられたようなものだが・・・。

　伊藤さん。ータイプではなかったけど、性格のいい女性だったな。

　杉山。ー綺麗だったな。顔は。これもふられたようなものだったな。なんか犬君が、��ヤッた″とか云ってたぞ。

　メイコ。ー自分に正直というか・・・我の強い女だったな。

　あと誰かいたっけ？・・・あっ、大塚さんがいたな。大塚さんと仲良くなりかけたら、犬君とメイコが部屋にやって来て、

『日本に彼氏がいる』とか、『性格が悪い』

とか何だかと云って、ふたりして云ってくるんだよ。あの後、なんか気まずくなって、自然消滅したよ。よくも潰しに来てくれたな。大体、何で犬とメイコが潰しに来るのか？彼氏がいるとか彼がいるとか他人のこと云えるのか？よく云えたもんだ。

　・・・まぁ、いつもこんなものだ。わたしの恋愛は。

　まったく、いろいろなことがあったとこだよ、ここは。

　さて、わたしもそろそろこの学校を出て、大連を去らなくてはいけない。

　何故か、メイコと香港に行くことになっている。