Ｆ ｌ ａ ｓ ｈ ｅ ｓ！
閃く！
◎一瞬、するどく光る。きらめく。
◎旗などがひらひらする。
◎考えや思いが瞬間的に思い浮かぶ。
−八っぁん。熊さんの長屋に大慌てでやってくる−
八「え〜こと思いついた。え〜こと思いついた。熊さん、え〜こと思いついたで〜」
熊「なんや、八っつぁん？いきなり、え〜こと思いついたって？」
八「今度の日本シリーズやがな」
熊「日本シリーズ？日本シリーズがどないしたんや？」
八「す、す、す、・・・」
熊「なんや、すすすって、酢がほしいんか？」
八「ちがうがな。酢なんかほしくないがな」
熊「じゃぁ、なんや」
八「そやから、すごい名案があるんや」
熊「すごい名案？日本シリーズでか？」
八「そうや。日本シリーズでや。さっから日本シリーズって云ってまんがな」
熊「なんやよ〜わからんが、どんな名案があるんや」
八「聞きたいか？」
熊「いや、別に」
八「なんでや。聞き〜な」
熊「云いたいんやろ」
八「云いたい」
熊「ほな、云ったら、え〜がな」
八「そなら、云うで、・・・ええか！」
熊「そない大きな声出さんでもええやろ」
八「ええか！云うで！・・・今度の日本シリーズ、我らの阪神タイガース、ソフトバンクと戦うやろ」
熊「そやな。戦うな」
八「阪神打線、ソフトバンクのピッチャー、いてまわなあかんな」
熊「勝つんやったらな。いてまわなあかんやろ」
八「そこでや」
熊「なんや」
八「ソフトバンクのピッチャーにブレトンってのを入れるんや」
熊「ブレトン？誰やそれ」
八「わいも知らん」
熊「なんやそれ。知らんで、どないするんや」
八「知らんけど、入れるんや」
熊「なんやわし、わけわからんようになってきたわ」
八「とにかくいれるんや！」
熊「とにかくいれるんかい。それで？」
八「次に阪神に※ウッズを入れるんや」
熊「ウッズ？ウッズってあの中日におったウッズか？」
八「そうや。あのウッズや」
熊「なんやすごいことになってきたな。それでウッズ入れてどうするんや」
八「そないなもん、決まってまんがな。ブレトンに打ちやすい球を投げさせて、ウッズが打ちまくるんや。それで阪神優勝や！」
熊「なんや、それ？そないうまくいくか〜？」
八「なに、いうてまんねん。いくに決まってるやろ」
熊「そうかな〜」
八「これぞ、ほんまの※ブレトン・ウッズ協定や」
熊「なんや、うまいこというな〜。なんか聞いてるうちにだんだんその気になってきたで」
八「そやろ」
熊「八っつぁん、すごいな」
八「すごいやろ」
熊「けど・・・すべてはブレトン次第やな」
八「ブレトン次第や」
熊「勝ったら、ブレトン、様さまやな」
八「ブレトン様さまや」
熊「よし！八っつぁん。善は急げや。さっそく阪神に電話せえや」
八「よしきた！」
−台所でこっそり話を聞いていた女房のお花が熊さんに話かける−
花「ちょっとあんた」
熊「なんやお花、おったんか」
花「おったよ。女房がいて、悪いんかいな」
熊「黙ってなにしとったんや？」
花「さっきからずっと話聞いてたわ」
熊「聞いとったんかいな」
花「あんたもあれやな」
熊「なんや」
花「あんた、もうバカなことしい〜な。はずかしい」
熊「何がバカなことや。名案やんか」
花「何が名案や。あほらしい」
熊「やい！亭主のいうことに口はさむんかい！」
花「口はさむもなにもあんなのうまくいくわけないやろ」
熊「そんなんもん、やってみなわかるかい」
花「わかるて。なにいってんの、このひと」
熊「お前、あほやろ。ブレトンがやるっていっとるやろ」
花「ブレトンがやるっていうたのんか？」
熊「いうたわい。はっきりとわしにいうたわい」
花「ほうか？ほな、結果がたのしみやな」
熊「待っとれよ〜。そのうち、吉報がやってくるわい」
−「後日」−
八「熊さん、いてるか？」
熊「おっ、八っつぁんか？よくきた。連絡も寄こさんで、ずっと待ってたで」
八「ふ〜」
熊「なんや、八っつぁん、ため息ついて？どないしたんや」
八「あかんかった」
熊「あかんかった？あかんかったんか！」
八「あかんかった」
熊「電話かけたのにか？」
八「電話かけたのにや。なんでやろ。名案やと思ったのに・・」
熊「なんでダメやったんや？」
八「それがわからへんねん」
熊「わからへん？それじゃ、もっとわからんわ。どういうことか最初からいうてみい」
八「どないもこないも・・・電話かけたやろ」
熊「うん。電話かけたんやな」
八「先方、出るわな」
熊「出たわけやな。それで？」
八「もしもしっていうわな」
熊「もしもしっていう・・・そんなんどうでもええがな」
八「それでわい、ソフトバンクにブレトンいれてくれって頼んだわけや」
熊「ブレトン、いれてくれって頼んだんやな」
八「頼んだ」
熊「ちゃんと頼んだんやな」
八「ちゃんと頼んだがな」
熊「それでどないしたん？」
八「そしたら、とたんに電話切れてもうたんや」
熊「とたんに切れた？」
八「うぬもいわさずにや。けんもほろろやった」
熊「そうか」
八「そうや」
熊「ブレトンのことは云ったんやな」
八「いった」
熊「そうか。それでわかった。八っつぁん、わかったぜ」
八「熊さん、何がわかったんや」
熊「実はな・・・」
八「・・・（うん、うんと首を振って、大きくうなずく）・・・」
熊「阪神、ブレトンのこと知らんのや」
※・・・タイロン・ウッズ（Ｔｙｒｏｎｅ Ｗｏｏｄｓ）
１９６９年８月１９日生まれ。アメリカ合衆国フロリダ州出身。横浜ベイスターズ（２００３〜２００４）と中日ドラゴンズ（２００５〜２００８）で活躍した助っ人外国人選手で、２００３年（４０本）、２００４（４５本）、２００６年（４７本）には本塁打王に輝く。特に２００６年は打点王（１４４打点）と合わせて、２冠王を獲得し、中日ドラゴンズのリーグ優勝に大きく貢献、中日史上、最強助っ人外国人の呼び声も高い。２００８年、中日ドラゴンズを自由契約となり、アメリカに帰国。日本では６年間で通算２４０本塁打を記録。現在は半リタイア状態。
※・・・ブレトン・ウッズ協定（Ｂｒｅｔｔｏｎ Ｗｏｏｄｓ Ａｇｒｅｅｍｅｎｔｓ）
１９４４年７月、アメリカ合衆国のニューハンプシャー州ブレトン・ウッズで、開催された連合国通貨金融会議で締結された国際金融機溝についての協定。連合国４４ヶ国が参加。第２次世界大戦で疲弊・混乱した世界経済を安定・復興させるため、米ドルと他国通貨との固定相場制（金本位制）を実施。西側諸国と日本に高度成長をもたらした。
１９７１年、８月１５日、ニクソン大統領が発表したニクソンショックにより、固定相場制から変動相場制へと移行、長く続いたブレトン・ウッズ体制の幕は終わりを告げた。
２０１４年１０月２１日