映画「矛盾」
－袋井－
袋井駅に電車が止まり、ドアが開くとホームに大勢の浴衣美女がいた。ものすごいひとだかりのため構内はごった返す人波で寿司詰め状態になっている。これはどういうことだ？一瞬、何が何だがわからなかったが、この日、８月６日に袋井で花火大会があるという話を馬場から聞いたのを思い出した。たしか馬場の話では袋井で花火大会があるのは夜の６時半から。とするといくらなんでも８時ぐらいには終わっているはずだ。しかし、既に夜も１０時になろうかという時間だというのにまだこんなにたくさんのひとが残っている。よくよく考えてもみると日も暮れてない６時半から花火などするはずもない。６時半は祭りの開始時間で花火はもっともっと後だったに違いない。馬場め、思い違いをしたな。それにしても悪いタイミングで帰りの花火客と鉢合わせになってしまった。間が悪いことこのうえない。呆然としながら、ひとの波を掻きわけ、外に出る。ロータリーもひとだらけだ。そして、雨が降っていた。
明石に行かなければと思った理由について、明石焼きが食べたかったと書いた。そして、瀬戸内の海が見たかったからとも書いた。どちらも今回の旅行を逃すと次に目的を体験できるのはいつになるかわからない。メリケンパークを出たあと、元町の駅に行き、２時３５分の電車に乗り、明石には３時ちょっと前に到着した。改札を抜け、商店街のほうに向かって歩く。商店街は至る所に明石焼きの看板がかかっている。明石焼きだらけだ。まず最初に海を見ようと明石港に行く。しかし、思い描いていたような綺麗で明るい海ではない。いつだったか記憶に定かでないが、昔、淡路島まで船で渡ったときは四国を思い出させるような穏やかで明るい海に島の陰影がコントラストとして映え、１枚の風景写真のようだったが、明石港に行くと船着場は高い壁に囲まれ、せっかく楽しみにしていた景色もまったく見えない。（思っていたのとぜんぜん違う。四国にいたときの記憶とこんがらがっていたのかな？）と思いながら、港を後にし、続いて明石焼きの店を目指した。携帯で何やら一生懸命しゃべっているおじさんとすれ違いながら、商店街に入り、明石焼きの店を探しながら、商店街見物。明石だけに蛸や鯛が店先に並ぶ。アナゴも名物らしい。土曜日だが、人通りはそれほどでもない。あれこれと迷った末、ちょっとオシャレな内装の店で明石焼きを食べる。『これが明石焼きだよ?』と久しぶりの自分。『ケーキみたいですね』と初体験の下山君。ちょっとしたホット・タイム。ＴＶを見ると８月６日はちょうど夏の甲子園大会の開幕日で、高校野球をやっていた。どことどこの試合だったかまでは見てなかったし、詳しい情報がないので、よくわからないが、あとで調べた感じでは金沢と伊勢工の試合でなかったかと思う。店の外でおじさんが店の前に置いてあるソフトクリームの置き物を黙ってずっと見つめている。何だがちょっとホラーだ。さわやかそうな高校野球。もう時間はそれほどない。食べ終わるとすぐに駅に戻り、今度は行きと逆に３時５０分の新快速で米原へ。それから、また長い長い電車の旅となる。
戻りの電車も行きと同じで、例のごとく、「レイダーズ 失われたアーク」状態。車内放送の順番が行きと逆なだけのことだ。だからここでは細かい説明は省略する。疲れが出てきたのか、ふたりとも半分、うとうとと眠りながら、電車に乗っていた。５時を過ぎた頃、京都で今度は花より男子軍団が入ってくる。『あいつ』『あいつ』と騒いでいたが、『これ、京都か？』と次第に大人しくなる。７時を回った頃、西岐阜のあたりで馬場から『今、どこにいるんですか？あっ、場所の確認です。場所の確認』と電話が入る。乗車中だったので、すぐに電話に切り、『まだ名古屋にも着いてない。名古屋を出るのが、８時近くになるから、そちらに着くのはだいぶ遅くなるよ。だから、晩飯はいいよ。着いたら、電話するので。それでは』とメールを打つ。〝袋井でいっしょに晩飯を食べよう″と約束していたが、思ったよりも帰りが遅くなった。８時には着くと思ったが、７時過ぎてもまだ名古屋にも着いていない。予定より１時間は遅れている。神戸でちょっとのんびりしすぎたかも知れない。７時過ぎにようやく名古屋に到着。７時２０分くらいに金山で下山君と別れる。１度、金山駅を出て、青春１８キップを受け取り、再び入る。他の人と共同で購入したものらしい。そのひとが使うので、『明日の朝までにポストに投函してください。でないと火曜日に間に合いませんので』ということだった。車内では金山からの停車駅について、「大府」、「刈谷」、「安城」、「岡崎」、「蒲郡」、「豊橋」と案内している。座っているすぐ近くにガキ三人衆がいて、「大府」、「刈谷」と放送されると、『あいつ』『あいつ』とうるさい。「安城」、「岡崎」と放送が入る。８時ちょっと前に『今日はありがとうございました、初めての神戸楽しかったです。写真も楽しみにしています』というメールが下山君から入っていたのだが、それを知らず、電車に乗っていると後ろのカギ三人衆が『あいつ。あいつ』と挑発するがごとくにしゃべっている。ふたり連れなら、いっしょにしゃべって気を紛らわすこともできるが、ひとりではしゃべる相手もなく、ずっと黙っていなくてはならないので、こうした場合、うっとうしいことこのうえない。『自慢話がしたかったら、履歴者でも持ってきて自慢したら、どうだ？うっとうしい』と自分のパソコンにメール。これは「年収」や「吉本」を発表したばかりの頃、よく使っていたフレーズ（他に『営業妨害はやめてください！』というものある）。こんな馬鹿ばかり出てくるようでは何のために「年収」や「吉本」を書いて、関西まで行ったのかわかったものじゃない。最近はひとの気持ちのわからん馬鹿ばかり、増えてしまった。８時半くらい『それではよろしくお願いします。それでは静岡までお気をつけて』とまた下山君からメール。『あいつ。あいつ』とうっとうしいガキども。「蒲郡」に『あいつ』『あいつ』。『自慢話がしたかったら、履歴者でも持ってきて自慢したら、どうだ？うっとうしい』と今度は馬場にメール。すると９時近く、また馬場から電話がかかってきたので『電車！』とメール。また『あいつ』『あいつ』とガキども。９時過ぎ『コントしたくて、来たんじゃね～ぞ！』と自分のパソコンにメール。『あいつ』『あいつ』とうるさいガキども。ガキどもは豊橋で降りて、どこへ行くともなく去って行った。浜松が終点で、そこから乗り換えて袋井へ。途中、静岡なでしこ軍団が同じ電車に乗ってきて、「愛野」がどうだこうだとどうなってるかは知らないが、これまたうっとうしいばかりだ。
袋井駅を離れ、雨のなか、傘を差しながら、しばらく歩く。商店街の手前でぽつんと立つ。花火大会も予想外なら、この雨も予想外だ。明日は大丈夫か？明日も雨か？そんな心配よりはさておき、とりあえず馬場に連絡せねばと携帯を手にしようとするとそれより先に馬場から電話がかかってきた。慌てて電話に出ると〝今、どこそこにいますが、どこですか？″と聞いてくるので、〝どこってどこだろう″と辺りを見回して、近くにあった店の名をいうと、『あっ、オガワですか？そこにいてください』という。云う通りにして待っていると自転車を引いた馬場がすぐやってきた。どうやら駅の近くで待っていたらしい。人が多すぎて、わからなかった。〝まずホテルを捜さなきゃ″ということで、去年、泊まったことのある駅のすぐ近くの観世というビジネスホテルに行ったら、どういうわけか閉まって、真っ暗だ。１０時までにはホテルを取り、たけしが司会をしている「ニュースキャスター」を見たいと思っていたのに大幅に予定が狂ってしまった。花火の余韻だろうか、まだたくさんの見物客が商店街をあっちいったり、こっちいったりしている。その間を縫うように、原野谷川を超え、市の中心部にあるプリンセスホテルというところに行ってみたが、そこも満員で空き部屋はないとのこと。『今日は袋井花火で、どこも満員ですよ』とフロントのひとに云われ、雨降りの中、さすがに困惑してしまう。もう夜も１０時過ぎ。『とりあえず晩飯食べましょう』、『タクシー拾って掛川でホテル探すしかないですね～』、『愛野も同じで、泊まれませんよ』と他人事のようにいう馬場に、〝花火大会あるの知ってたなら、ホテルが満員になることくらい気付けよ″と少なからずイライラ。さすがにお腹も空いていたので、そのホテルの近くにあったラーメン屋に入り、ラーメン食べながら、『１０４で調べれば分かりますよ』と教えてもらった電話番号を頼りに、どうにか隣りの磐田に空き部屋のあるホテルを見つけることができた。その姿を横目にラーメン食べながら、『タクシーで掛川行って、ホテル探したほうがいいですよ』とそればかりうるさい馬場に『運が悪かったよ！今頃、シャワーでも浴びて、ホテルでのんびりＴＶでも見て、くつろいでいたのに！雨は降ってるし！』と怒る。袋井駅、時刻表を見ながら、『２４分と５８分ありますよ！』という馬場に『ありがとう！』と云い捨て、電車で磐田へ。磐田からタクシーに乗り、ホテルに着いたときには既に夜の１１時を大きく回っていた。結局、「ニュースキャスター」は見れずじまいだったが、後でチェックすると特集は世界遺産になった小笠原諸島の暮らしやサッカー松田直樹選手の死去、竹島に４階建ての宿泊施設が完成などで、芸能は加藤茶の再婚、芦田愛菜、吉川晃司と布袋寅康のユニット、木村カエラの復帰などがニュースになっていたらしい。くわしく新聞をチェックしてなかったので、当日、どんなことをやっていたのか知らなかった。盛りあがっていたのかいなかったかは見てないので何とも云えない。肌で感じた分には、とてもじゃないが盛り上がってなかったんではなかろうかと思うが、意外に盛り上がっていたかも知れない。ホテルでやっとほっとすることができ、馬場に電話をかけたが、出ず。明日はキャンセルにでもするのかなと思ったら、１２時過ぎに電話をかけてきた。泊まっているホテルの名と場所を教える。『明日は１０時でいいんですね。わかりました』。どこか元気のなさそうな馬場だった。
２０１１年８月２６日