劇薬

-出発-

　５月１１日（火）。出発の日の早朝。

 　パソコンを開けるとこのようなメールが入っていた。

　ずのみさんへ

　お母さんの日はおめてとう、お母さんまだ中国いますか？
　明日は静岡行きますか？
　わたしはあなたと一緒に静岡行きたいです！静岡は大好きの所です。それと静岡抹茶粉大好きです。とても懐かしいですね。今も毎日抹茶飲みます。私は日本の時に自分は抹茶粉使う小豆のお菓子作りました。私はお料理する大好きですね。
　よっかたら、静岡の抹茶粉だけ買いますか？ありがとう
　とても悲しいです、として私はあなたに送りますの荷物は何処に行きましたか？中は韓国の海苔とラン面、お菓子、チョコレートと私書くの手紙とニューヨークのカットありますよ。
　いつものメール応援して、とても感謝です。あなたの応援いないなら、寂しいです。でも、あなたはいつも優しいの言葉、写真送ります、私は心はとても暖かいです。
　あなたのお仕事は休みですか？お仕事は危ないですか？大変ですか？唐辛子スブレ知りますか？自分の安全のために、アメリカは皆さんは持っていますよ、あなたはこれありますか？欲しいですか？私はあなたのお仕事の考えると、買いました。送りますできないなら、日本いくの時に、あけますよ
　前に言うの時計要らないです、買うしないでね。他うの安いのもの見つけます。
日本は今経済は悪いの新聞見ました、あなたの生活は大変ですか？静岡行きます、美しいのところ見ます、美味しいの物食べます、ちょっと癒すですか？
　長いの時間メールする少ないので、寂しいなら、ごめんね。学校は５月２０日ぐらい終わりなのです、今毎日試験が多いです。本屋さんでアルバイトもしています、毎日自分料理も作ります、いろいろ毎日忙しいです。
　あなたは毎日何がするの？忙しいですか？大変ですか？
　静岡行きます、楽しいのこと一杯するね

　愛より

　愛ちゃんからのメールだった。愛ちゃん（ハンドル・ネームは秋風愛）と知り合ってから一年以上が過ぎた。愛ちゃんは北京外国語大学仏語科卒の才女で、しかも美人。『一週間でもいいからメール交換してください』と頼みこんで交際が始まった。昨年の【岐路】では、愛ちゃんからのメールが無くなって寂しいと書いたように何度か連絡が途絶えたこともあるが、今年に入ってからは最低でも週に一度はメールをもらっている。この一年で愛ちゃんについてわかったことは仏語以外に英語がしゃべれ、日本語も頑張って勉強していること、日本についてかなりくわしく日本好きであること、家族が上海にいること、好物が海苔であること、そして、毎日、楽しくしたいこと。

昨年末から、シカゴで留学生活を送っていて、（アメリカ生活の）写真をよく送ってくれるが、それは数少ない僕の癒しとなっている。本当にそれ以外は何の楽しみもない生活といっても過言ではなく、旅行当日も心身ともにかなり疲れが残っていた。だから、朝起きてパソコンを開けるまで、��だるるっ″とテンションが下がったまんまだったのだが、上記のようなメールが来たので感激のあまり、

　愛ちゃんへ。

 　最近、メール来なくて、とても寂しかったので、ものすごくハッピーな気持ちでメール読んでます。

静岡には幸せな気分で行けそうです。

静岡では愛ちゃんが喜ぶようなことをたくさん、たくさん見つけて、帰ってきたいと思います。

仕事と生活ですが、パターン化して、同じことの繰り返しばかりなので、精神的に疲れてます。

何が疲れているかと云うとこんなこと愛ちゃんに云っても分からないと思うけれども、買い物もしないで、店でずっとテレビを見ながら、ブツブツ云ってるわけのわからない客とか、朝から晩まで店でビール飲んで、たまにフラフラと歩き出しては女性従業員にちょっかいばかりかけている酔っぱらいとかの対応しなくきゃいけないとか、小学生からお年寄りまで、窃盗犯が後を絶たなかったりとか、いろいろ、やっててむなしいことがたくさんあります。

お客さんから、ありがとうって云われたいですね。

お客さんにありがとうって云われるためにやってるのに、窃盗犯がやってくるのはとても悔しいです。

憎しみすら感じますし、ストレスも感じてます。

日本の経済がよくないのは事実ですし僕自身もストレスと上手に付き合わないと生活そのものに悪い影響が出てきそうなピリピリした状態です。

癒しが欲しいですね。

プレッシャーから解放されることが幸せですよ。

去年の９月に新しい政権が誕生しましたが、それ以前の日本が幸せだったかと云うと必ずしも幸せだったととは思いませんし、新政権になってもそれは変わらないですね。

新しくなっただということを受け入れる気持ちが大事です。

それがないと不幸は続きますね。

旅行は楽しんで行きます。写真も。

それでは。

ずのみ。

と、返事を書いた。その後、眠い目をこすりながら、１階まで降り、台所で水を飲み、トイレに行き、あくびしながら、ポストから新聞を出し、なにげにＴＶ欄を見るとフジの【めざましテレビ】では「谷亮子が参院選出馬」「Ｗ杯２３戦士の期待度」「独自仕分け・・・ムダ調」、【とくダネ！】では「なぜ？谷亮子氏��現役″続行で出馬へ・・・民主擁立の舞台裏」「予約に行列iＰad何できる？」、日本テレビの【スッキリ!!】では「政界挑戦谷亮子選手が民主から参院選出馬＆現役続行表明」、テレビ朝日の【スーパーモーニング】では「��ヤワラ″谷さん擁立逆風民主の小沢戦略」「��新幹線売り込め″ニッポンの新戦略密着」、ＴＢＳの【朝ズバッ！】では「金メダル谷亮子出馬へ、有名選手を擁立の理由」などなど、≪岡田ジャパン≫、≪谷亮子≫の名前がずらりと並んでいる。

（・・・・・・・・・）

昔なら、気になって、すぐさまＴＶを付けたかも知れない。が、見るのをやめた。

何故かって？

どうせ、すぐつまらなくなって見終わってしまうだろう。

それなら、まだ見ないほうがいい。新聞を見出しから丹念に読み、コーヒーにトースト、サラダとありきたりな朝食をすませ、余った時間を漫画で潰しながら、なんとなく期待に胸をわくわく膨らませ、８時少し前、家を出て、名鉄瀬戸線小幡駅に向かった。黒いハンチィング帽に買ったばかりの紺色のパーカー、使い古しのジーパンに１９８０円のスニーカー、替えの下着を一着だけ入れたリックにデジカメを入れたポーチ、そんな地味な恰好なのに気持ちだけはプレジデントのごとく意気揚々として、すれ違う通学途中の中学生や小学生たちの他愛ないおしゃべりも愛ちゃんという味方のいる僕には勝利のＢＧＭかのように聞こえた。

８時に近づくにつれ、ひとの流れが増えてくる。８時ちょうどぐらいに小幡駅に着き、電車に乗った。小幡から大曽根まで、駅４つのわずかな時間。ラッシュ時で、なかはぎゅうぎゅう詰めの満員状態、身動き一つとれない。そんな息苦しさを耐えていると向こうのほうから、なにやら数人の女性が笑いながら話しているのが聞こえる。はっきりとは聞こえないが『ない。ない』と云ってるようだ。何が『ない』のかはよくわからない。が、とくかく『ない』らしい。それから、暫く経って、��遅れています。ご迷惑かけます″という生放送が電車内にかかった。それが８時２０分くらいのこと。大曽根に着くとホームにはたくさんのＯＬや女子高生がいて、『じゃあね。バイバイ』と笑いながら、声を掛けあっていた。

ＪＲ大曽根駅で、（静岡の）掛川までの切符を買った。制服保安時代の悪友馬場と遊ぶ予定だったので、静岡で観光し、袋井で泊まることは確定済みだったが、どこに遊びに行くかはその瞬間までまったく考えなかった。何故、掛川を行き先に選んだのかについてはただ、なんとなく、大河ドラマ【功名が辻】がやっていた頃、賑わっていたというイメージがあるし、現在の大河ドラマ【竜馬伝】は、山内一豊が掛川から転封となった土佐が舞台。四国については【饂飩】で書いたし、大河ドラマについては【元贇幻春譚】がある。それに竜馬と馬場、名前も似ている。そのあたりの話つながりで、何か面白いネタでもできるかなという漠然としたヒラメキからだった。

大曽根から金山に行く。電車は「千種」、「鶴舞」と各駅停車で止まっていく。金山に着く。生理現象で我慢できず、トイレに行くと『やっぱりあいつだ』とどこからか若者の声が飛んできた。そうかと思えば、『８時３９分、××行き出発です』という放送が駅内に響いたりした。

金山から電車を乗り換え、豊橋へ。

出張で静岡に行ったときに乗って以来だ。【岐路】を走る路線でもある。

【岐路】から一年。当時はリーマンショックに加え、定額給付金や郵政人事でのドタバタなどが原因で、麻生内閣は低迷しており、支持率の落ち方は現在の鳩山内閣とそっくりだといっても過言ではない。むしろ、麻生内閣の低迷さを鳩山内閣が引き継いだといってもいいくらいだ。沈没寸前の麻生自民丸はその後、地方選で連敗を続け、東国原宮崎県知事擁立では混乱と不発に終わり、内閣改造だの総裁選だのと党内が揺れ動き、勝つ見込みもないまま解散総選挙、政権は鳩山民主へと流れていった。政権交代直後は７０％と高支持率で発足した鳩山内閣も、八ッ場ダム中止や後期高齢者医療制度見直し、郵政見直し、インド洋での給油活動の撤退、事業仕分けなど当初は民主党らしさを打ち出していたが、鳩山総理の偽装献金疑惑や小沢幹事長の裏献金疑惑、普天間基地移設問題での行き当たりばったり感の露呈などが原因で失速、支持率は右肩下がりに下がり続けて、わずか半年で２０％弱となっている。一方、野党に転落した自民党はというと『坂本竜馬になる』という失笑まみれの迷言とともに鳩山邦夫が離党、続いて平沼赳夫と与謝野馨が「たちあがれ日本」、舛添要一が改革クラブと合流して、「新党改革」など新党騒動を起こしたが、しかし、世論を見るとこれを世間では政界再編の動き（いってみれば、明治維新）としては捉えていないようだ。個人的には、はっきり云って、（中央行政にはくわしいかも知れないが）現場をまったく知らない大臣経験者が上から目線で「改革」を唱えることには嫌悪感しか感じなかった。それならば、まだ、現杉並区長の山田宏、前横浜市長の中田宏ら地方自治体の首長経験者らで結成された日本創新（送信？）党や橋下知事の「大阪維新の会」、河村市長の「減税日本」などの地域政党のほうが地域の自主自立という時代の風を感じる。おそらく、こちらのほうが本当の維新ではないか。残念ながら、明治には島津斉彬や吉田松陰はいないのだ。ところで今度の参院選、目玉でタレント候補、それもスポーツ選手が目白押しだが、これには有権者の目を引こうという各党の思惑が露骨なまでによく見え、それなりに関心を寄せてはいるが、別段、感心しようとは思わない。そんな当選しても役に立つか立たないか分からない候補者たちなどはどうでもいい。ノウハウや技術ならある。（大阪であれ、名古屋であれ、静岡であれ）、地元にたくさんの観光客が訪れ、地域が活性化さえしてくれるなら、政権交代の是非は３年後に問えばいいし、（実行力があるならば）地域政党でもいい。

とにかく、やれるならやりたい。

各党の主なタレント候補

終点の豊橋まで、「安城」、「岡崎」、「蒲郡」と列車が駅を過ぎてゆく。平日でラッシュも終わり、どの駅もひと影は少ない。豊橋に着いたのが１０時近く。次の掛川行きまで時間があった。��何かないか？″とぶらぶらと構内を歩いているとうどんが美味しそうだったので食べる。暇つぶしにホテルで読むために何か面白い本はないかとキヨスクに行くと「週刊東洋経済 ＮＡＧＯＹＡ２０１０　名古屋都市再起動」という本があり、見るとＣＯＰ１０とかトヨタの復権とか、河村改革とか、駅前開発だとか、リニモだとか、セントレアだとか、タイトルを見ただけで��こ、これは・・おお〜！″と唸るようなものばかりだったので、迷わず買った。
　豊橋から掛川へ。電車に乗るとうちに戻ろうとするおばさんたちと遭遇。何やら大声でしゃべっていた。「浜松」、「磐田」、「袋井」と生放送が車内に駅名が轟く。

（なんだかな〜）

　と思っていると袋井に近づいた時、電話がかかってきた。

　察してはいたが、やはり馬場からだった。
　

　２０１０年５月２１日